[ラジオ・ベビスネ] #1 ‘Space Oddity’ by David Bowie [名曲探訪]

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わたくしBabySnakeのライヴは、オリジナル曲プラス、古今東西の私的あるいはロック史に燦然と輝く、どこに出しても恥ずかしくない名曲、あるいは隠れた名曲などを、アコースティック・ギターを中心としたアレンジで、はたまた打ち込みを駆使したびっくりアレンジでおとどけする「ラジオ・ベビスネ」の二本柱である、と常々考えております。

そんな中で、ライヴでカヴァーしている曲たちをブログで少しずつ紹介して、わたくしはいったいその曲のどういったところに心を奪われているのか、ということをつらつらと書くというようなことをやって行きたいと思います。ずっと続くかも知れませんし、突然ばったり停止するかも知れませんが、まぁ、思いついたので始めて行きたいと思います。

第1回は、先日10年ぶりに復活し、リリースした新譜も大ヒット中の David Bowie の名曲「Space Oddity」です。

※今回は異様に思い入れの強い曲ですので、やたら長いエントリになってしまいます。ほかの曲はこんなに長ったらしく書きません…。

Bowieについては、彼こそが英国いやロック史いや、20-21世紀のカルチャー史に輝き続ける巨星ですので、彼自身の解説はこのエントリでは割愛します。いずれ、僕なりの思い入れや尊敬の念などをつづりたいとは思っていますが。

私の David Bowie への入り口は(以前にも書きましたが)中学生の時、NHK-BSで放映していた「Glass Spider Tour」の映像からで、音源として手に入れ、以後聴き続けたのは、BSを観たあと近所のニッポーというレンタル屋さんに走って借りてきて、カセットテープにコピーした「CHANGESBOWIE」という’70〜’80年代の作品を集めた(つかまだ当時は’80年代)ベストアルバムでした。ので、そこに収録されている、1972(1973?)年の再リリース版を初めて聴いたことになります。ビデオではジギー・スターダスト風にメイクアップしたボウイが、宇宙船に見立てたレコーディングスタジオで歌っています。

私がライヴでカヴァーして演奏しているのも、このヴァージョンのアレンジからのものです。

12弦アコースティック・ギターのストロークがフェイド・インしてくるところからエンディングまで、非常に視覚的かつドラマチックな曲です。

歌詞の内容は、地上管制官と、メイジャー・トム(トム少佐)との会話の形式をとったもので、第三者の視点が一切でてこないものです。

内容は宇宙飛行がテーマになっていて、あまりSF的でないにもかかわらず、どことなく視覚的にスタンリー・キューブリックの映画「2001年宇宙の旅」を彷彿とさせます。もちろんスターチャイルドとかは出て来ませんが。

そういえば、ロンドンの「マダム・タッソーのロック・サーカス」という、ロックスターたちが多数居る蝋人形館(2001年閉館)では、宇宙飛行士の服を着たボウイがこの曲をバックに展示されていましたが、まさに映画のイメージで作られていました。

歌の中、最後には機材トラブルのため管制官との通信が不能となり、どこか遠い宇宙に流されて行くメイジャー・トムですが、僕個人としてはなんというか、「物語のふるさと」的な、喪失感と余韻のあるエンディングだと思ったのですが、当時のファン達の中では、メイジャー・トムは自らの意思で地上を捨てて宇宙へ旅立つ英雄というような解釈が、ボウイのヴィジュアルとあいまって強まったようであります。

ボウイ本人はのちのインタビューとかで「歌詞の意味はファン達が勝手に考えてくれたよ!(笑)」とか言って、テキトーにごまかしておりますが…。

この、通信がとれなくなるところ、管制官の呼びかけ「Can you hear me Major Tom?」の「hear」とメイジャー・トムの嘆息「Here am I floating round my tin can..」の「here」をひっかけて、シーンがオーバーラップする歌詞がとても好きです。

管制官の「Ground control to Major Tom:Your circuit’s dead, there’s something wrong..」という呼びかけとところが「D7(Key=Gのドミナント)-C onG(Key=Gのサブドミナント)-G(Key=Gのトニック→Key=Cのドミナント)」と、着地感のない、どこか寒々としたコード進行、つかKey=GにおけるV-IV-Iという、西洋音楽での禁則 V-IV を踏んだ表現、いわばブルーズですね。になっていき、これまたFmaj7という、よくJ-POPの曲のサビの頭で使われるサブドミナントコード、すなわち「場面転換」の和音が出てくるという、音の演出が心憎いです。

サブドミというと、この曲、僕は音楽理論あまり詳しくないのでアレなんですが、たぶんKey=C/Amなんですけど、Cすなわちトニックで終始するところがありません。かならずFというサブドミでセンテンスが終わっており、これが独特の「(トニックという地面に)着地しない」浮遊感を出して宇宙っぽいイメージを作っていると思います。

特に先ほどのメイジャー・トムの嘆息の部分などは、Bbmaj7-Am-G-F、シbラソファと順番に下がってきた着地点がサブドミF、そこからカラっとしたキメ(C-F-G-A)にぶっとびます。キメの最後AコードはCキーのなかで一番マイナーなAmがAに変形してさらに湿気のない音になったもの。そうしておいて、間奏の最後はC-D-Eとまた部分転調を含んだ、♪ドレミ〜なんて、きゅるきゅると上昇するコード進行になっており、上がったり下がったり、ものすごく手の込んだものになっています。

なんだか、もろもろ総動員して「宇宙」にしている感じの曲ですね。

重厚なメロトロンや、JTM系の真空管アンプをあっぷあっぷさせた感じのビリっと歪んだエレクトリック・ギターのサウンド、リッケンバッカーっぽい輪郭のはっきりしたドライブ感のあるエレクトリック・ベース…どれもがよく練られて、高次元でバランスされた楽曲だと、今聴いてもビリビリきます。

…とか言って、案外、アメリカツアーに合わせた再録だしスタジオ屋さんを呼んできて、リリースに間に合うように「やっつけ」とかだったりして(笑)

で、わたくしずっとこの曲はこの、1972版しか知らず、これがボウイの世界であり唯一無二の感性だと思っていたのですが…

ずっと知らんかったオリジナル版が、こちら…

これがオリジナルだったのか!という感じでした。
しかし、ううう、なんでスカ?これ…

サウンド的にはハモンドが結構フィーチャーされて、テンポも早くなっていますが(って、こっちが元か)、間奏のフルートなど、なんか Manfred Mann というかアートロック調のアレンジと、歌い方もファルセットっぽくて、これはこれで素晴らしく、完全な世界観があるなぁと思うのですが、なんだよこのヴィジュアル…トンボメガネ…説明的なTシャツ…

あの印象的なラストも、これでは浦島太郎か、帰ってきたヨッパライではないか…

まぁ、何度かみているうちに慣れるというか、「これはこれで…」ではあるんですが、同じローバジェットの映像でも、スタジオのジギーと、全然ちがう…こんなんだったら、ボウイが白バックで得意のパントマイムを使って語りかけるのみ、の方がずっといいんでないかい?とか余計な意味ない事を考えてしまいます。

ともあれ、72年のこの曲でボウイは、宇宙ならぬアメリカへ、希代のロックスター、ポップアイコンとして旅立ち、紆余曲折を経て1980年代を迎える頃、彼の歌に再びメイジャー・トムが登場します。

アルバム「スケアリー・モンスターズ」収録の「Ashes To Ashes」では、ピエロに扮したボウイがメイジャー・トムを薬物中毒者とこき下ろします。

彼自身が味わった栄光と地獄、そして次の時代の気分をひとつに凝縮させたような圧巻のサウンド、ソングライティング、そして映像です。

「スケアリー・モンスターズ」にかんしては別のエントリでもちょっとかきましたが、この「Ashes To Ashes」も、また掘り下げて書いてみたいと思っています。

ちなみに、このアルバムには、かつてボーナストラックとして「Space Oddity」のさらにリメイク版がついているものもあったり、ゆかりの深い作品といえるでしょう。エイドリアン・ブリューとツアーしていた時はこの’80sバージョンで演奏されていました。

今回なんとなく稚拙なアナリーゼを書いてしまって恥ずかしいところではありますが、とかく、サウンドや歌詞のみが取り沙汰されるポップミュージック。ですが、実はこの曲のように、音楽としての構造や和声の力学のせめぎあいが、歌詞の世界と組み合わさり、絶大な効果をもたらしているということが言いたかったわけであります。

天才たちは漫然と、単にカッコいいメロディやコード進行を偶然の産物として生み出しているわけではなく、名曲というのは、きっちりと意味のあるものなのです。ま、アタリマエといえばアタリマエなんですが、あまりにもポピュラー音楽は「時代」や「印象」や「思い出」といった情緒的な面からしか語られなさすぎではないか、と。あるいはサウンド面からの解説は多いのですが、音楽の構造に言及していたり、和音や和声から楽曲を味わうようなアプローチが少なすぎるんではないかと、色々なメディアやブログの記事を読んで思うのであります。

まぁ、学生の頃に読んだ「音楽の正体」という本と、同名のテレビ番組からの受け売りではありますが(笑)

ということで、ラジオ・ベビスネ 第1回でありました。(次回はもっとシンプルな記事になると思います)

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