Perfect Pedal Order with Steve Vai — Video (Via GuitarWorld.com)
www.guitarworld.com/gear/perfect-pedal-order-steve-vai-video
鬼才スティーヴ・ヴァイが、BOSS のペダルエフェクターをつないで、使い方や彼のアイデアとフィロソフィを披露してしてくれています。
彼の Carvin シグニチャーアンプと、普通に楽器店で買える BOSS のエフェクター(一部、BOSS製品以外、Ibanez のジェミナイや Morley アリゲーター・ヴォリューム・ペダルが出てきますが)を使用しての解説ですが、単なるヴァイ・サウンドの紹介ではなく、非常に汎用的な内容になっていて、とても感動的なコンテンツです。
ネットなどで見かける、彼のデモ演奏や解説のヴィデオでのサウンドは、残響系のエフェクトが深くかかっていることが多い(また、それが魅力かつ大きな特徴なのですが)のですが、今回は解説のため、それらをオフにした非常にドライな、アンプ直結、素顔の極上ヴァイ・トーンを聴くことができまして、それだけでも相当おトクな内容ではないかと思います。
まず、パート1は、「ギター → ペダルボード → アンプ」と、直列に繋いで解説。アンプで歪ませるとディレイやフランジャーなども歪んでしまうので、空間系はクリーン・チャンネルでのみの使用。
重要な歪み系エフェクトの使い方が紹介されています。
・強く歪ませた歪み系エフェクター(BOSS DS-1など)→ アンプのクリーンチャンネル
・弱く歪ませた歪み系エフェクター(今回はBOSS ODシリーズ、ほかにもIbanez Tube Screamer など → アンプのディストーション・チャンネルの使い分けと、目指すトーンの違いなどが明確に解説されています。
これらはまた、プロの常套手段でもあります。特にふたつめの「歪み(エフェクター) on 歪み(アンプ)」というゲイン・ブースターとしての使い方は、使い方によっては単なるノイズの嵐で、なんだか音が遠〜くの方に行ってしまったり…と、コツの要るものですが、1曲のなかで、あるいはリードソロの途中で少し変わったキャラクターを加味したい、もうちょっとサスティンを稼ぎたい、そんなときに(下げていた手元ヴォリュームを上げるという手もありますが)非常に効果的だと思います。
そして、注目すべき部分は、クリーンサウンドからドライブ(ディストーション)サウンドに切り替えた時の、ディレイエフェクトのかかり具合の変化、の解説です。ゲインがアップしているぶん、フィードバック(繰り返し)量が増えている(増えて聴こえる)部分など、サウンドづくりの際に押さえておくポイントが解説されています。
パート2は、ヴァイ自身が使っているペダルボード(の、簡略版)を使用しての解説。
接続は、「ギター → Ibanez JEMMINI → クライベイビー → アンプのインプット → アンプのセンド端子 → BOSSのコーラス → コーラスのアウトでステレオ化してBOSSのディレイ2台にパラレルアウト → アンプのリターン端子(2台)→ ステレオ・スピーカー・キャビネット」
はて、これではアンプ1台はパワー部しか使わないことになるのですが…。
ライヴにおけるヴァイ・サウンドについて本人から解説されているのが興味深いです。実際はギターのシグナルはいくつかに分割(ディバイダー、パラレル出力)され、異なるトーンにされ、異なる残響をかけられて、左右にパンニングされ、MIXされて、音のタペストリーを構成しているんだ、との話。さらに彼はエンジニアのように「サウンドは水平方向にパンニング、垂直方向にEQ(イコライザー)を使って配置するんだ、特にEQについて学ぶことは重要だ」と力説。ギターサウンド同志や楽器同士の音がぶつかったりすることについても言及、周波数帯にイメージをつけて語るところもとても面白いです。
ここで大切なのは、残響・空間系のエフェクトは、アンプのinputにではなく、センド/リターンにつなぐということと、これぞヴァイサウンドという部分、歪み系エフェクターの後にワウ・ペダルをつなぐ、という特徴。
通常は、歪みはワウ・ペダルの後につなぐのが常套なのですが、ここでのヴァイ式での接続順は「歪みはワウの前」。これで、アンプの歪みだけを使う時は、通常どおり歪みはワウの後でかかるのですが、ワウの前に置いた歪みエフェクターをONにすることで、よりナスティで圧縮感のあるワウ効果がかかるということになります。
これは、彼のシグニチャー・ワウ・ペダルを持っている身としては、なるほど!と膝を打ってしまう内容。その Morley の Bad Horsie ワウ(私の持っているのは初期型)は、どちらかというと「かかりがうすい」ので、たとえばそのままアンプの前につなぐと、ジムダン的というか、ジミヘン的な効果はまったくのぞめないのですが、歪みを前においてサウンドを変化させてやることで、けっこうそれ風もイケてしまうのではないか、と思った次第で。(ビデオでは Bad Horsie ではなく、おそらくモディファイされたジムダンを使用していますが)
さらに、ディレイが2系統あるので、通常の付点8分音符と、超ロングディレイとの組み合わせで重層的な空間を作り上げるテクニックが紹介されているが、これは新機軸。たとえばエディ・ヴァン・ヘイレンや、スティーヴ・ルカサー、ニール・ショーンなんかは、ダブリング相当のショート・ディレイと、普通の残響用の8分音符や付点8分音符のディレイ、という組み合わせをよくやっているけど、これは面白い。マルチ・エフェクターで2系統にスプリットできてディレイをそれぞれにアサインできるのであれば、是非やってみる価値があると思います。私のGT-10でもできそうな気が…。
パート3は、またBOSSのコンパクトのみのセットアップおそらく「WAZA Craft」のフィーチャー。
ギター → OD → ブルーズドライヴァー → アンプinput →アンプSEND → コーラス → ステレオアウト → アナログディレイ2台 アンプRETURN → キャビ
ここでは、アナログ・ディレイのサウンドや、各オーヴァードライヴのトーンなどに細かく言及、これは本編のサウンドを聴いてみるとイッパツで違いがわかって面白い。しかし、ブルーズドライヴァーを使ってこんなサウンドを出す人はじめてや。だいたい、こってりしたブースト・トーンに使うのに…れっきとしたドライヴサウンドになってる…。
あと、エフェクトの各ツマミやパラメータの名称にも言及していて、同系統のエフェクターで、似たようなパラメータ名のものがあっても、実際の効果や効き具体はマチマチだよ、と言っていますね。さすが。
パート4は、質問コーナーですが、この質疑応答がすごい。いちばん好きなBOSSエフェクターは?との問いには、「うーん、DS-1(ディストーション)かな?すごく汎用的だからね。でも、ほかにも色々好きで、ひとつには絞りがたいね」みたいな事を言っています。よく使うスケール(モード)には、ドリアンを一番先に上げていますね。リディアンを使うのが特徴みたいに言われていた時期もありましたが。続いてブルーズとかマイナーとかも言っています。でも、曲によるとは思いますけどね…。
そこから続く、ヴァイ流の練習哲学というか、音楽への思いへの言及が感動的です。私がヘタに意訳してしまうと真意が伝わらない気がするので、だれかがきっちりと翻訳してくれることを祈るばかりですが、言っていることがとても上座仏教や瞑想的です。思考を捨て、弾くというフローに没入して自分を消し去ること、雑念(これは「自分への批判」と言っています)をすてて音楽にとりくむこと、を2大テーマとしています。
実際に Meditation という言葉が何度も出てきます。何をもって音楽とするのか、ギターを弾くこと、自分の音を追求すること、音楽をすることによって得られる幸せなど、非常に熱っぽく語ってくれています。「演奏技術を磨くことばかりじゃないんだよ、君の頭のなかにあるアイデアやイメージを、あらゆる手法を使って具現化させることこそが大切なんだ、それは君のテクニックを強調する効果にもなるんだよ」と。
こういったエフェクトデヴァイスを使うことを、極度に嫌うギタリストもたくさん居ますが、スティーヴの考え方はとてもクリエイティヴで柔軟です。あなたの描く音世界を広げ、実現するためには、たくさんのデヴァイスを試してみることだ!と。
全体的に、彼は「エフェクトペダルに、決まりきった使い方だけで接してはいけない。常套手段の逆をやることによって新しいサウンドを得ることもしばしばだ」と言っています。タイトルに反する気もしますが、逆説的に「パーフェクト」とは「飽くなき探究をやめないこと」なんでしょうね。
英語のコンテンツですが、そんなに早口ではないし、出てくる言葉も音楽と機材の言葉ばかりなのでわかりやすいのではないでしょうか。
素晴らしいレクチャーをありがとう、スティーヴ!